『白』 雪 雪は白い 雪は冷たい そして、 雪は溶ける 溶けた雪は水になり 水は交わり川となる。 何時の日か天に昇り、また雪になるまで。 私と、似ていた。 私も、白かった。 私も、冷たかった。 私も、溶けようとしていた。 でも、私は交わらない。 私は戻らない。 雪と同じように、誰かに愛されたりしない。 唯降り積もり、ある日突然消えてなくなるだけ。 そして、消えた後も、雪と同じように惜しまれたりはしない。 世界の影の部分で、唯ひそかに消えてなくなるだけ。 冬に生まれて、冬に去っていく。 そんなところが、似ているのかもしれない。 雪は、憧れにも似ていた。 だから、雪は好きだった。 冷たくなっていく心に、とても美しく見えた。 触れたときの冷たさが、生きていることを実感させてくれた。 そして、私が手のひらの雪のように消えていくことも。 だから、雪は好きだった。 今でも、好きだ。 ただ、すこし、 ほんの少し悲しいだけ。 嘘つきな私の世界で、うそを言わないから。 喋らないから。 私がこんなにもあなたが好きだということが、伝えられないから。 『ねぇ、おかーさん』 『ゆきって、どうしてあんなにしろいの?』 『うん、しろはきれいだね』 『だって、なんか、すきとおってるかんじがするから』 『うん、みてると、とってもやさしいきもちになれるよ』 『ふ〜んそっか、きれいなこころをぷれぜんとするためなんだ』 『ねぇ、じゃあさ、どうしてとけちゃうの?』 『ずっとふってれば、ずっときれいなこころでいられるよ?』 結局、その問いには答えてもらえなかったけれど。 でも、私だったら、何と答えるだろう? 全てが綺麗なままでいられないというのだろうか? どんなものにも限りがあるというのだろうか? きっと、私はこう答えるだろう。 『雪は踏まれて汚くなっちゃうから、また新しい雪になるためだよ』 雪は白い。 何もかも埋め尽くしてくれるほど、白い。 もう動かなくなった体に、その白さは鮮烈なまでの悲しみを運ぶ。 その冷たさは安らかな確信を与えてくれる。 まだ生きていること。 風向きが変わり、雪は私をよけていく。 感覚が消え行く最後の一瞬まで、 その最後の一欠片が尽き果てるまで、 踏まれすらしなかった私が溶け切るまで、 雪には残らない、 思いを、 願いを、 決して白くはないけれど、 思ってはいけなかったことを、 願ってはいけなかったことを、 唯純粋に願い続けた。 奇跡が、 舞い降りるまで…。